「行き止まりみたいね」
魔王殿の奥へ奥へ進むと、途中で道が途切れていた。
「いや、行き止まりではない。壁に紋章みたいなものがあろう。ここから先がアラケスが封印されている領域だ」
柳也の言うように、確かに壁には紋章みたいなのが刻まれていた。柳也の話に寄れば、この紋章に聖王遺物である王家の指輪を照らし合わせれば封印が解けるとのことだった。
「聞くまでもないが、覚悟は出来ているな?」
「ああ! 待っていろアラケス。このジュン様がギッタギッタのメッタメッタにしてやるぜ!!」
「ジュン君、あまり力み過ぎない方がいいわよ。ま、怖気付いているよりはマシだけど」
「そういうカオリは覚悟ができてるのか?」
「ここまで来て今更後戻りは出来ないでしょ? 覚悟も出来てなくてこんな所には来ないわ。それよりも……」
カオリは自分よりもシオリの方が気に掛かった。あの気の弱いシオリのことだから、もしかしたなら怖気付いたかもしれない。そう思い、カオリはシオリの方に目をやった。
「……」
シオリは無言で紋章の先を見つめていた。その目に怯えや途惑いはなく、真剣で肝の据わった眼差しであった。
(どうやら杞憂のようね。でも、あのシオリがね……)
シオリの真剣な眼差しを見て、カオリは複雑な気分だった。旅立つ前のシオリはあんな真剣な眼差しを見せたことはなかった。それを考えると、今までの旅がシオリを大きく成長させたのは間違いない。
けど、少しずつ成長して行くシオリが、いつかは自分から離れて手の届かない彼方へ行ってしまうのではないかとカオリは心配でならなかった。
(正直言って怖い。けど、もう後戻りはできない。自分にどこまで出来るか分からないけど、頑張って戦ってみせる……)
聖王遺物である妖精の弓をぎゅっと握り締めながら、シオリは自分自身に檄を飛ばしていた。
「やはり聞くまでもなかったな。では行くぞ! アラケスの元へ!!」
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SaGa−27「魔戦士公の脅威」
封印を解いた先には、今までとは違った空間が広がっていた。空間から感じる威圧感は、否応なくアラケスの領域であることを肌で感じさせるものだった。
「グオオ〜、人間ダ……。久々ニ上等ノ餌にアリツケルゾ!」
そして休む間もなく、今までとは違ったモンスターがいきなり襲い掛かって来た。
「うわっ! パリィ!!」
突然のモンスターの襲来に驚きながらも、ジュンは剣技パリィで何とか攻撃を受け流した。
「ルアアア!!」
「この動き、この速さ、今までのモンスターとは格が違うわね……。はぁっ、稲妻キィィィック!!」
迫り来るモンスターに、カオリは電光石火の飛び蹴りである体術技稲妻キックを食らわした。
「こやつらは、アラケス直属の部下アラケスの戦鬼! 今までのモンスターとは格が違う。無論、こやつらに勝てぬようではアラケスを打ち倒すなど夢のまた夢。雷殺斬!!」
「ギャアッ!」
柳也の一撃は、アラケスの戦鬼を瞬殺した。
「さすが柳也さん。オレも負けてられないぜ! デミルーン!!」
「フン! 効カヌワ!」
ガシィィィ!
ジュンが渾身の力で放った曲刀固有技デミルーンは、あっさりアラケスの戦鬼に受け止められた。
「少シ痺レタガ、コノ程度デハヤラレンヨ!」
「くっ、あたしの蹴りが効いていない!?」
一方、先制の一撃を加えられたカオリも、大したダメージを与えておらず、苦戦を強いられていた。
「グワワ〜〜!」
「シルバーフルーレだよ!!」
カオリに反撃を与えようとしたアラケスの戦鬼は、ナユキの小剣技シルバーフルーレにより絶命した。
「助かったわ、ナユキ」
「ううん。でもやっぱり一筋縄ではいかないようだよ」
「そうね……」
先程のナユキの一撃は何とか効いたものの、今の所柳也以外アラケスの戦鬼に対して決定的ダメージを与えていない。しかも、それでもまだアラケスの配下に過ぎない魔物共なのだ。
今これだけ苦戦しているのに、本当にアラケスを倒すことなんて出来るのかしら? カオリの不安は強まるばかりだった。
(守らなきゃ……。ユウイチさんの幸せを、アユさんの幸せを、みんなの幸せを! 私の力で守らなきゃ! 妖精の弓を託された者として!!)
そんな中、シオリは奮闘していた。みんなを護る為聖王遺物を託された者の使命を果たさなければならない。その強き想いが妖精の矢の威力を自然と高め、次々とアラケスの戦鬼を葬り去ったのだった。
「むう、流石は運命の子。この勢いならばアラケスを倒すのも夢ではない!」
柳也自身、アラケスを完全に倒すことは難しいと思っていた。しかし、シオリの奮闘を目の当たりにしたことにより、勝利への活路が僅かばかりだが広まったのだった。
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一行は魔王殿の奥へ、奥へと進む。途中何度もアラケスの戦鬼との戦闘を繰り返し、柳也、シオリの活躍により、アラケスへの道程は開けて行った。
「この感じ、恐らくこの先にアラケスが……」
そしてついに魔王殿の最深部らしき場へと足を踏み入れたのだった。眼前に見えるは一つの扉。その扉は酷く重厚な装飾が為されており、否応無く気圧される扉だった。
柳也が指摘するまでもなく、誰もが皆アラケスとの決戦を予感したのであった。
「さて、いよいよ決戦となる訳だが、突入する前に作戦を明示しておく。陣形はデザートランスとハンターシフト双方の陣形の特徴を併せ持った陣形を形成する」
「デザートランスとハンターシフト双方の陣形の特徴を併せ持った陣形!? どんなんだそりゃ?」
柳也の話す戦闘陣形に対し、ジュンが率直な疑問を述べた。
「デザートランスは戦闘能力の高い者が前に突出することにより、他の者を守る陣形。そしてハンターシフトは他の者が弓を射る者を守る陣形。
現在の戦力分析からこの陣形で戦うことを想定すると、前衛が柳也さん、そして後衛がシオリ。あたしやナユキはシオリを守る形になる訳ね」
「そうだ。ここに至るまでの戦いを分析する限り、お主達には悪いが、シオリ殿以外はアラケスの戦鬼の攻撃を迎撃するのがやっとだった。その腕ではアラケスには到底敵わん」
「否定はしないぜ。またオレは足手まといかよ……」
嘗てユキトや薔薇の騎士と共にアルジャーノン一味を掃討した時、ジュンは目立った戦果を上げることが叶わなかった。今度こそ活躍してみせると意気込んでいたが、結局また足手まといになるだけだった。
「作戦はこうだ。まず私がアラケスと対峙する。恐らく私の腕でアラケスを倒すことは容易ではないだろうが、足止めくらいは出来よう。
そしてアラケスが私と対峙している隙を突き、シオリ殿が妖精の矢で止めを刺す! この作戦ならば運が良ければアラケスを倒せるかも知れぬ」
「それでも運が良ければ、か。何だか不毛な戦いになりそうだなぁ……」
「もともと勝利の望みは僅かしかなかった筈だよ。だからやれるだけのことはやらなきゃ」
悲観的な愚痴を吐くジュンにナユキが釘を差した。あの聖王でさえあらゆる聖王遺物を用いアラケスに挑んだのだろう。今自分達の手元にある聖王遺物は妖精の弓のみ。しかも使用者は自分達の中で一番幼いシオリ。
聖王遺物を殆ど用いらないで対峙することそのものが無謀なのだ。しかし迫り来る脅威に対し、聖王遺物が揃っていないから戦えないなどと言っている余裕はない。自分はフェザーンの平和を守り抜いているお母さんには遠く及ばない。けどそんな自分でも精一杯に戦いたい。そうナユキは強く決意するのだった。
「あたしはその作戦に賛成よ。トドメを刺すのはシオリとはいえ、それまではあたしがシオリを守ることが出来るんだから」
自分はアラケスを倒すことは出来ないが、シオリを守ることは出来る。姉として妹を守り切る。それが許される作戦ならばカオリに反対する理由はなかった。
「やれるだけのことをやるしかないってことか。にしても……」
サユリ様の護衛をし初めて旅立ったあの日。あの時のシオリはモンスターに怯みながら懸命に戦っていたか弱き少女だった。
そんなシオリが今は聖王遺物を授けられ、四魔貴族討伐の要となっている。随分と成長したものだと思う節もあるが、この中で一番幼い少女には変わりはない。
シオリを守ることが今の自分に相応な事なら、全力でシオリを守り切るのみだ。そうジュンは強く決意するのだった。
(私が勝利の要……!? どうしよう……)
皆が決戦に向け意気込んでいる中、一人シオリは不安の渦中にいた。聖王遺物を授けられた者として頑張らなければならない。そう自分に言い聞かせて来たシオリだったが、いざ皆に頼られると、緊張し足がすくむ思いだった。
(こんな時ユウイチさんがいてくれたなら……。ううん、もうそんな事言うのはよそう。頑張らなきゃ、頑張らなきゃ……)
その場にいない人を頼りにするなんて軟弱な気持ちでは、アラケスなんて倒せない。不安で一杯だけど、それでも頑張らなきゃいけない。シオリはそう自分に言い聞かせて決戦へと臨むのであった。
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ギ……ギギ……。
重厚な扉が開かれる。扉の先には異世界とも言える空間が広がっていた。暗き部屋に重厚な空気。そして中心部に開かれた大きな穴……。
「柳也さん、これは?」
「この穴こそ、アビスゲート! この先にアビスの世界が広がっている」
「アビスゲート、これが……」
どこまでもどこまでも深く続くアビスゲート。重厚な空気はこの穴から流れているのだろう。
アビスゲートを目の前にし、カオリは否応なく気圧されるのだった。
「むう、やはりゲートが開きかかっているな。何事もなくゲートを閉じたい所だが、そうは問屋が下ろさぬであろうな」
「ゲートを閉じる? 閉じる方法があるんですか?」
「この王家の指輪だ。この指輪がアビスゲートを封印する力を持っている」
疑問を投げ掛けるジュンに、柳也が王家の指輪をかざした。
「然るに、アビスの力は指輪の封印を解き放とうとしている。故にアラケスをゲートの奥へ押し返した後再びゲートを閉じねばならぬ!」
ゴゴゴゴゴゴ……
その時、周囲に何か強大な者が近付いている音が響き渡った。
「この音は!?」
「この感じは恐らく……。来るぞ!!」
”血を流せ……”
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アビスの奥深くから轟音と共にその巨体を現わす魔戦士公アラケス。左手に巨大な槍を構え、右手には獰猛な獣を繋いだ鎖を構えるアラケス。深淵の蒼に包まれし鱗の如き肌。鬼神の如きその顔は見る者を圧倒させた。
「く……怯むな、怯むな自分!」
自分に檄を飛ばしながら冷静さを保とうとしたジュンであったが、あらゆる魔物すら軽く超越するかの如きアラケスの風貌に、全身を震わせて脅えたのだった。
「きゃあっ! こ、これがアラケス……!?」
魔貴族一の純粋な物理的破壊力を誇ると言われるアラケス。全身の獰猛さは否応なくそれを物語っていた。アラケスの巨大過ぎる存在に、シオリは悲鳴をあげながら尻餅をついてしまった。
「グオオオオオ〜〜! 血を流せ! 人間共、血を流せ!!」
左手に掲げた巨大な槍を回しながらアラケスは突進して来た!
「切り落とし!」
柳也は猛攻なアラケスの槍を、大剣技切り落としで弾き返そうとした。
ガキィ、ガキィィィ!!
「ぐ、ううっ……」
しかし余りの体格差に、柳也は攻撃を受け止めるのが精一杯で、弾き返すまでには至らなかった。
「人間にしてはやるが……貧弱、貧弱ゥゥゥゥゥ〜〜!!」
「ぐわっ!」
必死に受け止めていた柳也だったが、とうとうアラケスの勢いに負け、宙に身体を投げ出してしまった。
「次はお前達だ! まとめて血祭りにあげてくれるわ!!」
柳也を吹き飛ばした勢いでアラケスは、ジュンやカオリ達に向かって来た。
「おい、どうするんだよ! 柳也さんぶっ飛ばされちまったぞ!! いきなり作戦が潰れてしまったぞ!?」
「騒ぐ暇あったらあの攻撃をどう止めるか考えなさい、ジュン君!」
「わたしに任せて! 地を這う棘よ、その切っ先にてかの者等の動きを封じん! ソーンバインド!!」
ナユキは蒼龍術ソーンバインドと唱え、アラケスの動きを封じようとした。
「フン! こんな貧弱な縄でオレ様の動きを封じられるものか!!」
ブチブチブチ!
しかしアラケスはいとも簡単に魔力の棘を切り裂いたのだった!
「ハ〜〜ハッハッハッハッハ! 血だ、血を流せ人間共ォォォォォ!!」
「やらせん! 奥義、雷殺斬!」
ナユキの術を破った勢いで皆を血祭りに上げようと意気盛んに突進して来るアラケスに、柳也は名刀千鳥固有技雷殺斬を放った!
「多少ピリッと来るが、こんなチョコザイな技でオレ様を倒せるとでも思ったか!?」
「くっ、名刀千鳥の奥義が効かぬ!?」
しかし柳也の攻撃は僅かながらダメージを与えただけで、致命傷には至らなかった。
「いいか、人間! 武器とは! 技とは! こう使うものだァァァァァ〜〜!! チャージ!!」
アラケスの巨大な槍から繰り出される槍技チャージ。技自体は大した威力を誇っていない技だが、アラケスが使えばそれはスパイラルチャージすら凌駕し、槍技最強と謳われる無双三段にも匹敵する威力だった。
「ぐわっ!?」
流石の柳也もチャージの直撃には耐え切れず、意識を失ってしまった。
「柳也さん!?」
「シオリ、こうなったらとにかく矢を放つのよ! 柳也さんが倒れた今、アイツに対抗出来るのはあなたしかいないのよ!」
「でもお姉ちゃん! 私、私……」
あの柳也さんがこうも簡単にやられるだなんて……。そんな化物に聖王遺物の矢とはいえ、本当に通用するのだろうか……? シオリの胸中は不安の思いで一杯だった。
「シオリ、勇気を出せ! 奴に決定的一撃を与えられるのはお前しかいないんだ!」
「シオリちゃん、怖いのはみんな同じだよ。残念だけどわたしにはアラケスに決定的一撃を与える力がない……。でも、シオリちゃんにはそれが出来るんだよ! だから頑張って、シオリちゃん!!」
「お姉ちゃん、ジュンさん、ナユキさん……」
みんなが、みんなが私に期待してくれている。勇気を出せ、頑張れと激励の声を投げ掛けてくれる。なら私はみんなの期待に応えなきゃ!
(ユウイチさん、ユリアン……。私に、私に勇気を貸して下さい……! アラケスに立ち向かう勇気を!!)
溢れる不安を吹き飛ばし、足の震えを止め、シオリは勇気を振り絞ってアラケスに妖精の矢を放つのであった。
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「妖精の矢!」
シオリの放った妖精の矢はアラケス目掛けて一直線に射られた!
「ふん、こんなヘナチョコな弓など、はたき落としてくれるわ!」
自分に向け放たれた妖精の矢を、アラケスは軽く叩き落そうとした。
「我が意志により動け、妖精の矢!!」
だがシオリはアラケスが叩き落そうとした瞬間、妖精の矢の軌道を変えたのだった。
「何!?」
動揺するアラケスの隙を突き、シオリの放った矢は見事アラケスの身体に命中したのであった。
「グアアアアア〜〜!!」
「やった、効いてるぞ!」
「頑張ったね、シオリちゃん」
「シオリ、よくやったわ」
初めてアラケスに決定的一撃を与えられたことに、皆は歓喜の声でシオリを祝福した。
「みんな、ありがとう。続けて行きます、妖精の矢!」
皆に祝福された勢いに乗り、シオリは2本目の矢を放とうとした。
「調子に乗るなァァァ、人間共ォォォォォ! ウオオオオオ〜〜!!」
完全に舐め切っていた人間に一撃を食らったことにより、アラケスは全身で怒りをあらわにした。アラケスは怒りの捌け口を求めるかの様に、けたたましいテラーボイスを放ったのであった!
「ぐわっ、なんだこの超音波みたいな声は!?」
「耳が、頭が痛い……!」
テラーボイスにより軽い混乱状態に陥ったシオリは、著しく集中力を奪われ、矢を放つ所ではなかった。
「許さんぞ、人間共! その五体を噛み砕いてくれるわ!!」
アラケスは右手に従えた獰猛な獣の牙から放たれるファングクラッシュで襲い掛かって来た!
「無の心にて悪しき者を絶つ! 無無剣!!」
しかし何とか立ち上がることの出来た柳也が、獣の牙を大剣技無無剣で斬り払ったのであった。
「柳也さん!」
「皮肉にも、アラケスの声で意識を取り戻せた。勝負だ、アラケス!」
「フン、いい気になるな人間!!」
「ぐわっ!」
生半可な攻撃に晒されたことで、余計に憤怒したアラケスは、ぶちかましで柳也を軽々と吹き飛ばした。
「このまま全員吹き飛ばしてくれるわ!!」
「ぐわっ!」
「きゃあっ!」
テラーボイスにより混乱状態に陥っていた皆は足取りがおぼつかなく、ぶちかましの直撃を食らってしまった。
「う、うう……」
吹き飛ばされ地面に叩きつけられたシオリは、全身に痛みを感じながらも辛うじて意識を取り戻すことが出来た。
「ジュンさん、ナユキさん、柳也さん、お姉ちゃん!」
シオリは他のみんなの名を呼び掛けた。しかし皆致命打を受けており、返事をすることすらままならなかった。
(このままじゃ、みんなが死んじゃう……。みんなを、みんなを助けなきゃ!)
「母なる大地よ、我等にその大いなる恵みを与えたまえ!」
みんなの身体を癒すべく、シオリは白虎術アースヒールを唱えようとした。
「い、いかんシオリ殿……その術を唱えては……」
柳也は弱々しい声でシオリが術を唱えるのを止めようとした。
「アースヒール!!」
どうして柳也さんは止めようとするのだろう、ここで私がみんなを回復しなきゃ取り返しのつかないことになる。シオリは柳也の言葉が理解出来ず、皆を助けるべくアースヒールを唱えたのであった。
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「みんな、大丈夫ですか!?」
「ええ、大丈夫よ。ありがとうシオリ」
「お陰で助かったぜ、シオリちゃん」
「どうもありがとうだよ、シオリちゃん」
シオリの想いは通じ、皆の身体の傷は見事癒えたのであった。
「何てことを、何てことをしてしまったのだ……」
しかしそんな中、一人柳也だけはシオリに感謝の言葉を投げ掛けなかった。
「ちょっと、柳也さん。シオリはみんなを気遣って術を唱えてくれたのよ! なのにどうしてそんな言葉を掛けるの!?」
感謝の気持ちすらない柳也の言葉に、カオリは怒り心頭で非難した。
「アラケスの姿を見よ。さすれば何が起きたか全て分かる……」
柳也の言葉に従い他の皆はアラケスに目を向けた。その瞬間、皆は背筋が凍り付いた。シオリから受けた傷が、柳也に斬り落とされた獣の牙が見事再生してるのだ。
「フフフ、ご苦労だな人間。このオレ様の傷を癒してくれるとは……」
「どういうこと……? まさかシオリの術がアラケスにまで影響を!?」
「そんな、そんな筈ありません! 私はみんなを助ける為に術を唱えたので、決してアラケスまで回復させようとは……」
「……。アラケスは白虎属性の魔貴族。先程のシオリ殿の術により、周囲が白虎地相に変わったのだ。こうなっては生半可なダメージは軽く再生されてしまう……」
「そ、そんな……」
皆を助けるべく唱えた術。それが皮肉にも周囲をアラケスに有利な地相に変えてしまった。
私はただみんなを助けたかっただけなのに、それがこんな結果になってしまうだなんて……。あの時素直に柳也さんの言葉に従っていればこんなことには……。
自分が犯してしまった過ちの深さにシオリは完全に動揺し、言葉を失ってしまった。
「敵に塩を送るとは、人間とは愚かな存在だな。期待に応えて今度こそ血祭りにあげてくれるわ!」
傷が癒え、自分にとって完全に有利な戦況になった勢いに乗り、アラケスは一気に止めを刺そうと襲い掛かって来たのであった。
「最早完全に封印することは不可能。されど、せめて一時的にでもアビスゲートに押し返す! ファイナルストライク!!」
完全に倒すことは不可能だが、一時的にでもアラケスを封じ込めたい。その強き思いを持ち、柳也は名刀千鳥の力を一気に解放したのだった。
…To Be Continued |
※後書き
色々あって半年以上間が空いてしまって申し訳ありませんでした。今回、続きが読みたいという要望に応えて書き始めたのですが、意外にすらすらと執筆出来ました。なんだかんだ言いまして、この物語を書くのが楽しいのだと改めて実感しました。
さて、ようやく魔貴族との対決に踏み切ったのですが、この戦いではアラケスとの決着は着きません。実際のゲームですと聖王遺物なくても勝てる相手なのですが、展開上聖王遺物をある程度揃えた状態で決着を着けさせたいので。
しかし、四魔貴族は七英雄に比べて個性が少ないですね。ボスとしての魅力も落ちますし。ボスを四魔貴族じゃなくて七英雄にすれば良かったかなとも思いましたが、そう思った時には既に魔貴族の名が出た後なので、原作に準拠した形となりました。
さて次回は往人中心の話になるかと思います。今度は半年なんて間が空かないよう頑張ります。
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